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海のヒーロー:新型コロナウイルスに立ち向かう持続可能な水産業者

新型コロナウイルスの大流行によって、水産業界はこれまでにない厳しい状況に直面しています。

しかし、持続可能な水産業者たちは、何百万人もの消費者に水産物を供給し、水産業に携わる何十万人もの人々の暮らしを守るために、斬新かつ独創的な方法でこの困難を乗り越えようとしています。

こうした「海のヒーロー」に、水産業界の存続のためにどのような試みを行なっているのかを聞きました。


海にとどまる

Silhouette of fishing gear and man on deck of large ship at sea facing setting sun漁船での日常業務が大きく変わってしまった今、乗員たちは苦渋の決断を迫られています

セーシェル沖で操業するスペインのマグロ漁業、エチェバスター社。セーシェルを発着する国際線のフライトがすべて運休しているため、6隻の漁船と2隻の加工船で働く200名の乗組員たちは、帰国することができない状況となっています。

まったく先行きの見えない中、エチェバスター社は乗組員に対して、下船してセーシェルに滞在するか、もしくは船にとどまって操業を続けるか、どちらを希望するか聞き取りを行いました。

エチェバスター社のコミュニケーションアドバイザー、ホセ・ルイス・ハウレギ・イリアルテ氏はその結果について次のように述べました。「全員が船にとどまることを選択してくれました。継続してまき網漁業に尽力する彼らには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。その善意にどのように応えればよいのかわかりません。」

乗組員の中には既に4カ月以上も船上にいる人もいますが、当分の間はこのままの状況が続くことになります。入港しても、新型コロナウイルスを船内に持ち込んでしまう恐れがあるため、下船することができないのです。

乗組員を海に留め置く対応は他でも行われています。持続可能な漁業、水産加工、養殖を推進するアイスランドのサムヘリエ社では、海に出ている期間を延長することで、隔離を行っています。同社のCEO、クリスチャン・ヴィルヘルムソン氏は、「延長する期間はあくまでも乗員次第です。それが容易なことでないのは重々承知しています」と述べています。

乗組員が新型コロナウイルスに感染している疑いがある場合の新たなガイドラインが、アイスランド全土で導入されています。中でも特に厳格な体制をとっているのが、アイスランド最大の漁業者の一つ、シルダヴィンスラン社です。

同社は、数隻の大型トロール船で、カラフトシシャモやホワイティング、ニシン、ブルーホワイティング、サバを漁獲しています。乗組員に新型コロナウイルス感染の疑いがある場合には、機関士は船室やエンジンルーム内にとどまり、船長は他の乗組員から離れなければなりません。食事は必要に応じて運ばれることになります。このガイドラインは、水産業界団体と各乗組員が所属する労働組合との合意の下で策定されたものです。


「新しい日常」への適応

通常の職務範囲を超えた業務を行なっているのは、海上で働く人たちだけではありません。持続可能な水産製品を扱うスペインの大手生活共同組合小売チェーン、エロスキは、本部スタッフを店頭に配属しています。

エロスキの鮮魚管理担当マネージャーのゴルカ・アスコナ氏はこう言います。「ライフラインを維持するのに必要不可欠な業務に携わるスタッフ以外はみな、フルタイム、パートタイムに関係なく、各店舗での品出しやセッティングの手伝いをしています。」

エロスキでは、持続可能な水産物と水産製品の供給を確保するために、漁業パートナーと緊密な連携をとっています。レストランやサービス産業の休業に伴い、水産物の価格は一時急落してしまいました。

アスコナ氏は言います。「ですが、その数日後には漁業の自主規制が始まりました。出漁を控え、安全のために競りの時間をずらすことによって、より適正な価格になりました。しかしながら、多くの漁船が休漁している中、年末までに漁獲量の回復が見込めるかどうかはわかりません。とはいえ、各店舗の鮮魚売り場への供給は確保されており、いつもより水産物が少ないというようなことはありません。鮮魚の場合、漁獲量による変動は当たり前のことです。あらゆる部署のスタッフが応援に駆けつけてくれたおかげで、店の営業を続けることができます。これについては、エロスキのお客様からも高い評価をいただいており、毎日のようにお花やケーキ、感謝のお手紙などをいただいています。」


Backs of shoppers in masks at supermarket fresh fish counter

直販への切り替え

いま世界中で、消費者への直接販売が行われるようになってきています。オーストラリア東部のムールーラバでは、MSC認証漁業者のウォーカー・シーフード社が自社の敷地内に小売店を設置し、消費者に対してMSC認証のキハダマグロやメカジキ、アカマンボウの直接販売を始めました。

ウォーカー・シーフード社の専務取締役であるハイディ・ウォーカー氏は次のように述べています。「新型コロナウイルスの流行によって弊社の輸出路は完全に絶たれてしまいました。アメリカ市場は一夜のうちに停滞し、国内市場もホスピタリティ産業の休業を受けて同様となりました。直販は地域のみなさまに大変好評で、規制解除後も販売を続けるつもりですが、これは弊社の事業のごく一部に過ぎません。地域のみなさまからは、『ムールーラバでこんなに質の良い水産物を買うことができるなんて夢のようだ』という嬉しい声をいただいています。」


Woman holding large tuna at dock with boats docked and blue sky

日本でも、高級レストランや外食サービス業向けの水産物が店頭に並ぶようになりました。

アジアの小売業でトップの売り上げを誇るイオンは、通常であればレストランや百貨店が扱う水産物を消費者に販売しています。各種MSC認証製品を取り扱っているイオンの店舗では、いつもの市場で水産物を販売できなくなった漁業者らを支援するために、日頃供給している水産物に加えて、高級魚の販売も行うようになりました。

そして中国でも、シャングリ・ラホテルグループのサプライヤーであるダ・タンの経営陣が、新型コロナウイルスの緊急事態に積極的に対応すべく、オンラインショップと地域密着型の小売店の開店に踏み切り、消費者に製品を直接販売することを決定しました。

今回からシリーズでお届けする「海のヒーロー」。持続可能な水産業界の機能を存続させ、世界中の消費者に持続可能な水産物を提供し続けるために果敢に取り組む個人や団体を取り上げていきます。