中層ひき網で獲られた魚介類は持続可能なのでしょうか? この漁法と海に及ぼす影響を軽減する方法について詳しく見てみましょう。
海底付近に生息する魚を対象にする底びき網とは異なり、中層ひき網は外洋の魚を対象にしています。
中層ひき網は表層ひき網としても知られており、海中で大きな網をひいて表層や中層を泳ぐ魚を漁獲します。
外洋の海面から海底までは漂泳区分帯と呼ばれており、深さによって異なる層に分けられます。海面から水深200mまでが表層で、1000mまでが中深層です。ほとんどの中層ひき網漁業はこの2つの層で行われます。
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中層ひき網の仕組み
中層ひき網漁業で使われる網は円すい型で、その先端に魚を捕らえるための袋網(コッドエンド)がついています。網目の大きさは漁獲対象の魚種の大きさに合わせてあります。網に追い込まれた群れは網を通り袋網に入って漁獲されます。
漁船後部から海中へ展開するひき網には、上部に浮き、下部に重りが付けられており、これによって網の開口部は垂直に保たれます。側面にはオッタ―ボードもしくはトロールドアと呼ばれる板でできた開口装置が設置され、網が横に開いている状態を保ちます。
漁船は魚群探知機を使って、水中の魚群の位置を正確に特定します。魚群探知機のシステムで対象の魚群のいる水深と群れの大きさを探知します。ひき網に取り付けられている音響センサーがリアルタイムで魚群の位置を漁船に知らせ、それに応じてひき網の位置を調整することができます。
一艘びきと二艘びき
中層ひき網は一般的に底びき網よりもかなり大きく、1隻あるいは2隻で牽引します。網を2隻でひく場合(二艘びき)、それぞれの漁船が網の片側をひくことで、網の水平方向の広がりが維持されます。二艘びきではさらに大きな網で広い水域をカバーできるため、大きな浮魚の群れを効率的に漁獲することが可能です。
そのほかの中層ひき網漁
まき網を用いた表層二艘びきには、網の底を閉じる仕組みなど、まき網の要素が取り入れられています。網が魚でいっぱいになると、まき網の底を閉じます。これによって魚は逃げられなくなるため、効率的に大きな群れを漁獲することができます。
離底ひき網は底びき網と中層ひき網の混合型です。この網は、海底付近の底生生物およびより上方の浮魚の両方を漁獲対象にすることができます。網をひく際に、水深に合わせて網を調節できる仕組みになっています。
中層ひき網漁が対象とする魚種
中層ひき網と表層ひき網漁業が対象とするのは、ニシン、サバ、カタクチイワシ、イワシ、スケトウダラ、ブルーホワイティング、アジ、スプラット、カラフトシシャモ、マアジなどの大きな群れをつくる魚です。
中層ひき網はまた、小型で動きの遅い魚種の漁獲にも適しており、ナンキョクオキアミの漁獲にも使用されています。あまり一般的ではありませんが、中層ひき網はマグロ・カツオ類のようにより大きく動きの速い魚の群れの漁獲に使用されることもあります。
中層ひき網漁が環境に及ぼす影響は?
どのような漁具であっても、持続可能な管理を行わなければ、海洋環境に重大な影響を及ぼす可能性があります。
過剰漁獲
ひき網の網目の大きさが適切でない場合は過剰漁獲につながります。特定の水産資源の魚を獲り過ぎてしまい、繁殖して個体数を維持するのに十分な数の成魚がいなくなってしまうからです。例えば、網目が小さすぎる場合には未成魚まで漁獲してしまい、それらは不要な漁獲物または廃棄物として捨てられてしまう可能性があります。
また、網目の大きさが不適切な網を使用することが、地域または国際的な漁業規則に違反している場合には、違法漁業となる可能性もあります。
混獲
網目の大きさが不適切な場合、ほかの魚種に対して選択性が低くなり、大量の混獲につながりかねません。
混獲とは非対象種を意図せず漁獲してしまうことで、これにはサメ、エイ、ウミガメ、鳥類、およびイルカ、ネズミイルカ、クジラなど海洋哺乳類の絶滅危惧種・保護種(ETP種)に指定されている種も含まれます。
生息域
中層ひき網は海底との接触がほとんどないため、生息域のかく乱を低減させ海底生息域への物理的な影響を回避することができます。
それでも、漁具が紛失または廃棄されると「ゴーストギア」となって海洋生物を捕獲し続ける可能性があります。ゴーストギアがサンゴ礁などの脆弱な生息域に絡まってしまうこともあります。廃棄された漁具は海洋環境を汚染し、より大きな海洋生態系に長期的な影響を及ぼします。
中層ひき網漁は、どのように環境への影響を軽減できるか
すべてのMSC認証取得漁業はその漁業と漁具が環境に与える影響が低いことを実証しなければなりません。多くの漁業は、MSC漁業認証規格に照らして持続可能な漁業として認証されるために、改善を求められます。
そうした改善には、船上モニタリングや独立した漁業オブザーバー乗船率の拡大、漁具の改良による非対称種との遭遇の低減などが含まれます。自主的な改善には、ゴーストギアによる漁獲を防ぐために紛失した漁具の回収や再利用などがあります。
中層ひき網漁はどのように過剰漁獲を防ぐのか
網目を適切な大きさにすることによって過剰漁獲を防ぐことができます。網目を大きくすることで未成魚は漁獲されずに成魚となることができます。網目の大きさの調整によって漁具の選択性が高くなり、対象魚種と異なる大きさの種を逃がすことができます。
中層ひき網漁業はどのように混獲を減らすのか
持続可能な中層ひき網漁業は混獲防除装置を用いて漁具を改良し、非対象種およびETP種の漁獲を回避しています。
混獲防除装置とは、漁具もしくはひき網を改良することで非対象種をひき網から逃がす装置です。例えば、ナンキョクオキアミ漁業では、ひき網の口に、クジラとアザラシが入らないようにする装置を搭載しているところもあります。
また、ウミガメの混獲を防ぐために、ひき網の口に柵を取り付けて、ウミガメやサメが進入しないようにしている中層ひき網漁業もあります。
さらに、網目の大きさを適切に調整することによって、混獲のおそれのある種が網に入るのを防ぐこともできます。


